おことわり

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2013年11月30日土曜日

5月に観た映画

しつこく感想の続きをば。

ラストスタンド」。「ダイハード」の10作目あたりがこうなりそう、みたいなお話で、コンパクトにまとめられた肩の凝らないアクション篇。婆さんがヘルプするシーンとかを観ると、もうちょっと住民たちの活躍があってもいいのかな、とも思いましたが、敵方にとっては主人公の住む街は単なる通過点だもんな。「悪党vs住民」の広がりにはならないか。

シュワルツェネッガーはもともと芝居が上手い人ではないので、台詞回しとかはちょっとツラい感じがしましたが、最後の格闘で体を張った大奮闘をみせてくれて嬉しかったです。興行的にはかつての勢いは望めないのでしょうが、これからも元気な姿を見せて欲しいもの(ヴァンダムもボルボのCMで頑張ってるしね)。
「L.A.ギャングストーリー」。う~ん、これだけ硬派なメンツが揃っていて、やっていることが「J.エドガー」劇中のFBIを礼賛したテレビドラマみたいなノリになっちゃっているのはどうしてなんですかね。画面の色使いが「ディック・トレーシー」あたりを意識しているのかな、とも思いましたので、コミックか何かの雰囲気を狙ったのかもしれませんが、「L.A.コンフィデンシャル」に魅せられた自分としては、お子様向けの安っぽさにしか感じられず、どうも納得できません。

それにしても「ギャングストーリー」って邦題はねぇだろ。これじゃギャングが主役じゃん。原題のsquadはどこに消えた?チラシもHPも原題の表示がないなんて、昔の東宝東和みたいで、変な意味で嬉しくもありますが…
ワーナーは「ゼロ・グラヴィティ」の2種類目のチラシがマークどころか社名すら載せていないし、何を考えているのかな(無印良品ですか?)。
レイダース/失われたアーク」。この辺はかつて廉価版のビデオを繰返し観ていたので、懐かしさとか新発見とかはないのですが、大きな画面といい音響で観ることができるのはやっぱりありがたいです。これでしょっぱなの岩の玉が支柱つきのオリジナルだったらいうことないのですが、それは無理ですね。

観ながらずっと考えていたのは、何だかんだいってこの時代はまだまだアナログだったんだなぁ、ということ。4作目とかはすっかりCG大会で、画面は派手だけれど、「はいはい。凄いですねぇ(棒)」と、嫌な客になってしまったのですが、1作目の車の追跡シーンは「そういやインディを殴るオッサン、スタントマンが直にやったんだったけか(記憶違いかも)」とか考えつつも「お、スゲェ」と身を乗り出して観てしまいます。公開当時は、アーク開封の特撮ばかり「凄い凄い」と思っていたのに、変われば変わるものだ。
「リンカーン」。ダニエル・デイ=ルイス、3度目のオスカー、って一人でそんなに貰っていいの?こりゃ生涯ふたケタ受賞あるで、と少々斜に構えて出かけましたが、そんな意地悪な見方を吹っ飛ばす熱演で、失礼いたしました。別に本人が猟賞活動している訳じゃないし。でも、最近「REDリターンズ」の予告編を観る度にマルコヴィッチが1回も貰えていないという不条理を感じるので、まぁいろいろと難しいですね。

本編ですが、生涯を俯瞰する伝記的なものではなく、奴隷解放に関する法案の審議・採決に的を絞った構成で、最近のアメリカ議会のねじれ現象も彷彿させて興味深く、非常に面白く観ることができました。陳情を受ける大統領の姿は「ゴッドファーザー」冒頭のマーロン・ブランドみたいで、ロビー社会ですなぁ。「政治という仕事は、情熱と判断力の両方を使いながら、堅い板に力をこめて、ゆっくりと穴を開けていくような仕事です。」という言葉を思い出した一編。

中二病を発症して数十年、日本映画の食わず嫌い(特に情緒的な作品)を続けてきましたが、寄る年波による心境の変化か、木下恵介生誕100年を記念した上映を当地のMOVIXでもやっていたので、時間が合った作品を2本ほど。

二十四の瞳」は終わってみれば2時間半の大作だったのですが、構成がしっかりしているのか、少しも飽きさせることのない、見応えのあるドラマでした。戦後10年も経たない製作ということもあってか、「戦争はもう懲り懲り」というスタッフ・キャストの感情が生々しく伝わってきて、昨今の教科書的な、あるいは政治的な意図が見え隠れする作品とは別物ですね。
楢山節考」は実験色の強い作品で、今の眼から観ると、逆に古臭さを感じなくもない点もあるのですが、セットの懲り方も半端なく、日本映画の黄金期の力強さが伝わってきます。作品のテーマが当時の自分の心境と重なる、という個人的な事情もあったので、感慨深い鑑賞でありました。

と、いうことで、もう少し日本映画も、特に古いのは観ておきたいなぁ、と思うのですが、機会はなかなかないですね。新作は…というと、予告編を観る限り、映画より「日本映画ダメ絶対bot」の方が面白く思えてしまうのが困ったものです。

2013年11月17日日曜日

4月に観た映画

とうとう半年以上遅れてしまいましたが、年内には追いつきたく、メモ。

デジタル上映となった「午前十時」ですが、当地のシネコンでは小さいスクリーンに押し込まれ、せっかくのシネスコ作品も上下に黒味が残るレターボックス上映、と雰囲気がないことこの上ない。「タワーリング・インフェルノ」は画質もプロジェクター投影感(←うまく表現できませんが)があって、見始めは違和感があったのですが、話が進むにつれてそれもあまり気にならなくなり、あっという間の165分。今どきのハリウッドでは高層ビル一棟が燃えたくらいじゃ商売にならないのでしょうが、CG描くより人間描けよな、とあらためて思わされました。

マックィーンの後にドン・ゴードンの姿を見つけ、舞台はシスコでロバート・ボーンも…と、ブリット色濃厚で、マックィーンの力の入れ方はタイトル順だけではなかったのだなぁ、と感心。
ザ・マスター」。ポール・トーマス・アンダーソンは昔DVDで観た「ブギーナイツ」の良さがイマイチ分らず、その後縁遠くなっていたのですが、サイエントロジーを題材にしている、というのに惹かれて興味本位でチャレンジ。

とはいうものの、こちらの期待ははぐらかされ、新興宗教の教義やありよう等は焦点ではなく、主人公(ホアキン・フェニックス)と周囲の人々との関わり様、感情の機微をまるでジャズのアドリブのように演者にセッションさせ、それをカメラに焼き付けました…という体裁。ホアキンの演技は熱演というより「この人大丈夫か」と痛ましさを感じるほどで、余裕が感じられないのが観ている側として辛かった。

65mmによる撮影は美しく、特に海のシーンには魅入られましたが、テーマを自分自身の意識・知識・感情とうまく重ねることができなかったこともあり、その日の天気(大雨)同様、どよーんとした重い気持ちだけが残ることになってしまいました。

ネットや雑誌等を見て、「観ようかな」と思った映画がこちらでかかるかというと、そうではなく、後になってから映画サイトや作品のHPで、すでに周囲50km圏外で上映中と知り、あわてて出かけることも多い。「キャビン」もそんな一編で、片道の移動時間が本編より長くなってしまった。

そうまでして出かけた甲斐があったかといえば、「ちょっと面白い」以上のものではなく、ツマらなくはないが、ここまで手間ひまかけて観る価値のあるものとも思えないのが、決して熱心な映画ファン(ホラー関係は特に)とはいえない自分にはツライところです。コスパみたいなことは考えたくないし、「DVDで充分」とも言いたくないんだけれど。

映画の世界観に少し得心が行かなかったのですが、くろばくさんの批評を読んでスッキリしました。感謝です。

そんなこんなで4月に観た4本のうち新作3本は県外に出かける羽目に。自分程度のレベルではそんなにマニアックなチョイスはできないし、していないと思うんだけれど、これが現実。

「アンナ・カレーニナ」も終わるかも…と思って隣県のシネコンに駆け込んだのですが、これは少したって市内でも上映。作品のHPも追加上映はしっかりアナウンスされないこともままあって、こういうのがいちばんショック。

「エンド・オブ・ザ・ワールド」が気に入ったし、Wikipediaの肖像画が結構キーラさんでもいけそうな感じがしたので、文芸作品にもかかわらずトライしてみたのですが… やっぱりキーラさんはロシアって感じはしませんね。

とはいえ、ジュード・ロウはなかなか巧く演じていたし、舞台装置の移動を模した場面転換等、現代的なテンポで進むので、文芸作品というよりエンタテインメントとして、気楽に観ることができました。

2013年11月4日月曜日

男はつらいよ 超大作(寅次郎恋歌)

左が東京、右が大阪のもの。ともにB6二つ折り。
東京では一般封切直前の12月24日まで上映されています。
前回のエントリー「007/ゴールドフィンガー」のリバイバルを2週間、と書きましたが、日比谷映画が2週間で、同時に封切った新宿プラザは4週間、日比谷映画を継いだ渋谷宝塚と池袋劇場は2週上映していましたので追加報告。
東京版の中面より。松竹の期待が
伝わります。大阪版も同じ文章
(「超大作」のまま)で掲載。

さて、「ウエストサイド物語」「ある愛の詩」のエントリーがらみで新聞縮刷版をダラダラとめくっていたところ見つけたのが「男はつらいよ 寅次郎恋歌」のロードショー告知。Wikipediaでは1971年12月29日公開となっていますが、これは松竹系の一般封切の公開日(同時上映は「春だドリフだ 全員集合!!」)で、実際には11月20日に松竹洋画系で一本立てで先行ロードショーされています。

当時の新聞広告には「『家族』『影の車』『人間の條件』や『ある愛の詩』でおなじみの丸の内ピカデリーで日本映画最初の喜劇ロードショー!」(11月5日付)「やったぜ寅さん!明日より丸の内へ進出!」(11月19日付)といったコピーが踊り、松竹の力の入れようがうかがえます。寅さんといえば、自分には「盆と正月」の定番、というイメージだったのですが、この時期(70、71年)までは年3作製作しており、この第8作がその定番=「更なる高み」への挑戦、松竹や山田監督にとっての大一番だったことが、このロードショー版のチラシの文章からもひしひしと感じられます。公開初日にはプレゼント付のアンケートも実施しており、松竹も客層が気になっていたのではないでしょうか。

結果は大成功、前作(奮闘篇)の動員92万6千人(これも充分凄いですが)から、一気に(一般公開とのトータルで)148万1千人まで客足を伸ばし、空前絶後のシリーズ映画としての地歩を固めた作品となりました。当時は大映が新作映画の製作をしないことを発表した直後(同年12月に破産)で、松竹としてはこの結果に安堵したのでは。
カラーのB5版
チラシファンとしてはこの東京版の「超大作」表示、正式タイトル決定前だから仕方がないとはいえ、一瞬「第1作では?」と錯覚させる罪作りな品。いまだに第1作としてオークションに出品するのを見かけますので、困ったものです。それにしても70年代の松竹作品には「超大作」という文字をよく見かけますが、「砂の器」や「八ツ墓村」あたりならともかく、「男はつらいよ」や「幸福の黄色いハンカチ」あたりも超大作っていうのはなぁ。気持は分かりますが。

「男はつらいよ」のチラシはこの第8作より前の作品群のハードルが異常に高く、特に初期の数作は老舗のショップでも扱ったことがないという話を聞きます。007のように「どんなものかは知っているけれど高くて手が出ない」のではなく、「そもそもモノがあるかどうか分らない」というレベル。8作以降でも地方版、特に80年代の関西版・民音版の二色刷りのチラシは人気が高く、こちらも集めるのは結構大変。これに「寅さんまつり」やタイアップも追いかけていくと、まさに「コレクターはつらいよ」に。さすが国民的映画ならではです。