スピードチラシ。仮題つきはボロボロの ものしか持っておりません。 |
70年代の珍品チラシを追いかけていると、どうしても「スプラッシュ公開」(東宝や松竹・東急系列の二番館で上映)の作品が気になってくるところ。この「砂漠の流れ者」のように、観客に配布されるようなチラシは(おそらく)作られていなくても、業界内配布用のスピードチラシが「本命」として珍重されています。このあたり「『映画のチラシ』をどのように定義するべきか?」という問題もはらんでいるのですが、実際はかなり適当、コレクターの主観・価値観次第になっている感が。
で、「砂漠の流れ者」も、当初は「遥かなる西部のバラード」という仮題がついて、シングル盤も発売されていたようなのですが、最終的にはタイトルを変え、「鷲と鷹」(リー・ヴァン・クリーフとウォーレン・ウォーツの競演作。東劇系での封切は1週間で終了)との二本立てと相成った次第。
そんな経緯からスピードチラシも仮題のものとタイトルが空欄になったままのものがあり、チラシ大全集には空欄に正式なタイトルが手書きされたものが掲載されています。
プレスシート B3 |
スピードチラシとプレスシートを比べると、解説やストーリーは同じですが、プレスの方はアートワークやキャッチコピーをアクション映画、それもマカロニを意識した残酷ものっぽく仕立てています。
当時の新聞広告はプレスに載っている「宣伝文案」を手直しし、「毒蛇責め!渇き責め!砂地獄!」と打って、さらに「眼を覆う残酷さ!この世のものとも思えぬ物凄さで話題騒然!」と煽っているのですが、この映画を観た人なら、「眼を覆う残酷さ」は作品を捻じ曲げてでも売り込まねばならぬ「業界の掟」であり、「この世のものとも思えぬ物凄さ」はスピードチラシの4枚の場面写真をアクション風にデザインした「プロの技」だと思うのではないでしょうか。これらのフレーズ、おそらくは宣伝した側の自己韜晦、自虐も入っている気がします。
ワーナーは60年代後半から「ブリット」「俺たちに明日はない」「ワイルドバンチ」「ウッドストック」「ダーティハリー」「時計じかけのオレンジ」「スケアクロウ」…と、映画史に残る作品を連発していましたが、台所事情は厳しかったよう。「エクソシスト」と「燃えよドラゴン」が大当たりした1974年1年間の日本法人の配収が過去10年分だった(キネ旬決算号)そうですから、作品の価値と商品の「旬」の興業価値はなかなか一致しないものです。
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