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2014年2月3日月曜日

モダン・タイムス(72R)

このイラストの原画は墨絵で実物大に描かれ、
淀川長治も「これこそチャップリン」と絶賛したという。
岩谷時子が亡くなった時に、「みじかくも美しく燃え」のことを思い出して、「東和の半世紀」をあらためて手に取ったところ…

この本には淀川長治や双葉十三郎といった映画評論家はもちろんのこと、川端康成や三島由紀夫、寺山修司、宮沢喜一等、各界の方が文章やコメントを寄せているのですが、その中に「世界残酷物語」の写真とともに「ザンコク・バンザイ」という文章が。

筆者は益川進。「聞いたことない人だなぁ。学者さん?(←それはノーベル賞の益川敏英)」と思いながら、読みすすめていたところ、「世界残酷物語」のポスターを担当したなれそめのエピソードが綴られ、「このあと、《ビバ!チャップリン》『愛のコリーダ』へと長く続いた」とあるではないか。

あぁ、灯台下暗し。以前70~80年代の東宝系作品のいくつかのイラストが気になっていたのですが、サインがうまく読めなくて、マルカワ、マスカワどっちだろう?と思いつつ、迷宮入りして放置していたのだった、そういえば。

名前がわかって調べてみると、映画広告の世界で非常に功績のあった方で、東宝を基盤に東映、東宝東和等のポスターや新聞広告で数々の名作を生み出しています。とりわけ東宝時代の黒澤明の作品群のポスター・題字はほとんどこの方の手によるもののようです。

益川氏の仕事は映画広告のみならず、キネマ旬報をはじめとした雑誌・書籍の装丁、あの「男は黙ってサッポロビール」のロゴのレタリングといったものまで。

さらには近年再評価されているという鈴木英二監督、司葉子主演の「その場所に女ありて」(未DVD化)の脚本は東宝の社内公募に入選した益川氏のシナリオが元になっていたり(クレジットは変名で、升田商二)と、本当に多彩な仕事を残されています。

かくして、毎度のことながら自分の知識のなさに恥ずかしくなったのですが、その知名度・功績は業界内と比べて、やはり一般的には知られていないのが現状のようです。映画広告表彰の先駆けである「読売映画広告賞」は第1回をはじめ受賞に枚挙にいとまなく、第25回(1974年5月)にその功績から特別表彰を受けているのですが、読売新聞の過去記事で氏の名前がヒットしたのはこの時が最後。他紙や大宅文庫でも氏の名前は検索できませんでした。
益川氏の仕事がカラー6ページに
わたって紹介されています。
そんな中、昨年は少し動きがあって、氏の母校である広島県呉市の小学校に自作の絵画を寄贈していたことが最近になってわかり、市内の公民館で展覧会が開かれ、地元ではローカルニュースや中国新聞の地方版に取り上げられました。この展覧会を機に呉のミニコミ誌「くれえばん」が益川氏の特集を掲載し、自分もこのバックナンバーでいろいろ知識を得た次第です。

さらに今年に入って、展覧会開催に尽力された母校の元校長先生が益川氏の仕事を紹介したホームページ(益川進の世界)を立ち上げられました。ぜひご覧いただければと思います。これをきっかけに少しでも広く益川氏を知る人が増えることを切に望みます。

蛇足ですが、自分もできる範囲で益川氏の仕事をまとめてみました(日本映画はこちら外国映画ほかはこちら)ので、こちらもご覧いただければ幸いです。

それにしても、これだけの人が世間一般には知られていないのは残念というより、かなり問題なのではないでしょうか。クールジャパンだかなんかで、よくわからない予算を使うより、益川氏をはじめとした映画黄金期に貢献した職人たちの仕事をしっかりとした形で掘り下げ、まとめることの方が絶対に大事だと、強く思います。

2 件のコメント:

じゅまんじ さんのコメント...

添付されているギャラリーを拝見すると、知っている作品がチラリホラリ。こういう裏方の業績はもっと広く知られてしかるべきではないでしょうか。

4月にフィルムセンターで実施される赤松陽構造氏の映画タイトルデザインの展覧会も映画の見方を変える新しい発見がありそうで、今からとても楽しみにしています。

紀住 圭人 さんのコメント...

じゅまんじさん、コメントありがとうございます。今回のエントリーを書くにあたって自分なりに調べてつくづく感じたのですが、映画を世に広めた裏方さんの名前、仕事をもっとしっかりとアーカイブしていく動きが広がって欲しいものです。

赤松陽構造氏の展覧会、自分も楽しみにしています。イベントも土曜日にやるようなので、どれかには足を伸ばすつもりでいます。
これからもよろしくお願いします。