2013年1月27日日曜日

サン・スーシの女

ブログを始めるようになって、以前から気になっていたことを調べるようになったのですが、1984年公開のヘラルド・エース配給作品「サン・スーシの女」のイラストもそのひとつでした。

80年代中盤になると、都内にミニシアターが増えてくるのですが、これもキネカ大森のオープニング作品で、他にもいくつか同じ方が手がけたイラストのチラシがあって、この路線が続くのを密かに期待していたのですが、残念ながら3作ほどで終わってしまいました。

描いたのは毛利彰。60年代に伊勢丹の広告で活躍、70年代にフリーとなり、広告や本のカバー、挿絵等で活躍された方で、「歴史群像」の武将の肖像画、角川版の「火の鳥」の表紙、80年代後半のミスドのノーマン・ロックウェル調のボックスアートなどをご記憶の方もいらっしゃるかもしれません。

惜しくも毛利氏は2008年に亡くなられたのですが、「実験人形ダミー・オスカー」で有名な叶精作のブログによると、朝日新聞の追悼記事(残念ながら縮刷版では該当記事は見当たらず)に、「『芸術という言葉が嫌いだ。銭湯の富士山を立派に描く人を尊敬する。自分の仕事はそういう仕事』...と語った。注文を受けて売れる絵を描く。いずれは消える商業イラストをきちんと仕上げる。それを誇る職人だった。」とあったそうです。

そう思ってこのチラシをあらためて観てみますと、実はロミー・シュナイダーの図案はその後発売されたビデオのジャケット写真と同じものを基にしているのですが、広告として必要な職人的な写実性と商業イラストの枠に収まりきらない芸術的な色彩感覚が混じりあって、「なるほど『富士山』だなぁ」と感じた次第です。氏の他の作品をこちらにまとめさせていただきました。
大橋氏は制服関係にも造詣が深く、
大阪万博のコンパニオンの制服についての
著書や昭和ウルトラシリーズの女性隊員
の研究本「ウルトラヒロインズ」(角川書店)
の編集を手がけており、こちらもなかなか
面白く、お薦めです。

今回のエントリーを書く過程で知り、参考にさせていただいたのが、「SF挿絵画家の時代」(大橋博之)という本。SFマガジンで連載されているSF小説の挿絵を手がけた画家を紹介した記事をまとめたもので、総勢71名のプロフィールが掲載されています。

個人的にSF小説は少年ドラマシリーズがらみのジュブナイルか、高校生の頃に読んだ筒井康隆の文庫本や映画の原作くらいしか縁がなく、小松崎茂や石原豪人といった有名どころはともかく、毛利氏はじめ大半は名前すら存じ上げていない方ばかりだったのですが、SF小説の仕事を基軸としているものの、児童文学や金田一シリーズといった推理小説、果てはプラモデルやおもちゃのボックスアートまで、と幅広い仕事が紹介されており、その仕事に就いた過程や職業観を含め、非常に面白く読むことが出来ました。商業出版の制約上、図版が少ない、小さいのは残念(ジュブナイルの図版は近々まとめた本が出るようですが)ですが、この種の本は少なく、大変な労作だと思いますので、興味のある方はぜひ一度手にとってみることをお勧めします。

映画の広告図案についても、こういった本が出てくると嬉しいのですが。

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